前立腺がん対策

はじめに

国は、人生100年時代に対応した全世代型社会保障の構築のために、人生100年時代の安心の基盤となる健康寿命の延伸・生産性の向上として、II.健康寿命延伸等に向けた保健・医療・介護の充実を掲げています。

今回は、健康寿命の延伸に資する疾病予防・重症化予防の中で、がん対策として、前立腺がん対策を中心に、5つのがん(胃がん、肺がん、乳がん、大腸がん、子宮頸がん)についての実態調査を行いました。

また、令和元年5月に成立しました、医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等 の一部を改正する法律に基づき、令和2年4月より、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施(一体的実施)が施行されます。

一体的実施には、以下の3つの一体的実施があります

①高齢者保健事業と介護予防の一体的実施
②高齢者保健事業と国民健康保険保健事業の一体的実施
③市町村と後期高齢者医療広域連合の一体的実施

弊社がデータヘルスのご支援をしている市町村のご担当者様より、一体的実施として、何をすれば良いかというお問い合わせを多くいただいています。
上記3つの一体的実施のうち、②及び③の重要性を示唆する事例としても、前立腺がんに係る調査についてご紹介いたします。一体的実施に取り組む自治体保険者様のご参考になれば幸いです。

第3期がん対策推進基本計画と本調査の背景について

平成30年3月9日に閣議決定された、第3期がん対策推進基本計画の全体目標の1.科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実~がんを知り、がんを予防する~の中で、以下の通りの記載がある

『がんを予防する方法を普及啓発するとともに、研究を推進し、その結果に基づいた施策を実施することにより、がんの罹患者を減少させる。国民が利用しやすい検診体制を構築し、がんの早期発見・早期治療を促すことで、効率的かつ持続可能ながん対策を進め、がんの死亡者の減少を実現する。』

前立腺がんについては、 5つのがん(胃がん、肺がん、乳がん、大腸がん、子宮頸がん)と比しても、同様の全体医療費に対する割合を有していること(詳細後述の背景参照)、加えて、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によると、前立腺がんは、他のがんと異なり、今後も罹患者数が増加すると予測されているため、本調査では、上記第3期がん対策推進基本計画の全体目標にも則り、協力いただいた6自治体について、前立腺がん検診の実態、前立腺がん治療の実態について調査を行った

(出典)第3期がん対策推進基本計画 よりデータホライゾン作成

調査自治体について

調査自治体の概要

6自治体の協力のもと、前立腺がんに係る健康・医療分野の実態を把握することを目的として、調査を実施した。

調査自治体の概要

※高齢化率の6自治体平均 33.5%(全国平均 28.4%)※有効数字2桁で示している。
(出典)データホライゾン作成

調査方法

調査対象自治体が保有するがん検診、国民健康保険のレセプトデータを用いて、分析を行った。

【背景】前立腺がん患者数の推移について

前立腺がんは、他のがんと異なり、今後も罹患者数が増加すると予測されている。

前立腺がん患者数の推移

(出典)国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」よりデータホライゾン作成

【背景】5つのがんと前立腺がんの医療費について

前立腺がん医療費の全医療費に対する割合は、5つのがんと同様の割合である。

全医療費に占めるがん医療費の割合(協力いただいた6自治体平均)

5つのがんと前立腺がんの医療費

(出典)データホライゾン作成

前立腺がん検診について

前立腺がん検診の対象者や費用等

前立腺がん検診の対象者や費用等

(出典)データホライゾン作成

厚生労働省の指針改定を受けて、検診運用方法の変更を検討している自治体もある

自治体へのヒアリング結果:厚生労働省の指針改定を受けて、検診の廃止や運用を変更した自治体はなかったが、今後は段階的に節目検診等への移行を検討している自治体は5自治体のうち、3自治体あることが分かった

前立腺がんの罹患率

前立腺がんの患者割合の経年変化(自治体別)

前立腺がん患者割合(患者数÷男性被保険者数)の推移は、一定割合で推移している。

前立腺がんの患者割合の経年変化(自治体別)

(出典)データホライゾン作成

データ化範囲(分析対象)…入院(DPCを含む)、入院外、調剤の電子レセプト。対象診療年月は平成26年4月~平成31年3月診療分(60カ月分)
資格確認日…各年度、1日でも資格があれば分析対象としている
年齢範囲…年齢基準日時点の年齢を0歳~99歳の範囲で分析対象としている
年齢基準日…各年度3月31日時点
※罹患率…集計対象の疾病を1つ以上有する対象者の数を、各年度の男性被保険者数で除した数値

PSA検診の状況について

前立腺がん検診の対象者や費用等

前立腺がん検診の対象者や費用等

(出典)データホライゾン作成

自治体における前立腺がん検診の流れ

前立腺がん検診事業の流れ

自治体AからEにおいては、下記の流れで、前立腺がん検診としてPSA検査と要精密検査の案内を実施していた。
特に、自治体A、B及びEにおいては、要精密対象者に対して、積極的な電話勧奨を実施していた。

前立腺がん検診の対象者や費用等

※図はイメージです。

調査対象市町村における検診事業の状況

前立腺がん検診事業の実施状況

PSA検査受診後に受診者全員に対して、積極的に電話勧奨を実施している自治体AとBでは、勧奨等を実施していない自治体C、D市と比較して、低い未受検率(④/③)となっていることから、PSA検査受診後の勧奨が、要精密検査受診率向上に貢献していることが示唆される。
また、未受検者(④)のうち後期高齢者の割合は、自治体Bを除いて60%以上あり、十分な未受検者対策を実施するには、国民健康保険制度と後期高齢者医療制度で連携し、未受検者をフォローする等の取り組みが重要である。

前立腺がん検診事業の実施状況

※有効数字2桁で示している。
(出典)データホライゾン作成

前立腺がん検診の効率的な実施に係る考察

前立腺がん検診を効果的に、早期発見・早期治療につなげるためには以下の3点が重要

(A)PSA検査受診率の向上
(B)要精密検査未受験率の改善
(C)国民健康保険に加えて後期高齢者とも連携(一体的実施)

前立腺がん検診の効率的な実施に係る考察

※厚生労働省平成28年度市区町村におけるがん検診の実施状況調査集計結果より。※有効数字2桁で示している。

実情に合わせた対策

下記3点の対策は、各保険者の実情を踏まえて、期待できる効果の大きさや、効果の顕在化までの想定所要時間を踏まえて、対策を取ることが重要(下図参照)

(A)PSA検査受診率の向上
(B)要精密検査未受験率の改善
(C)国民健康保険に加えて後期高齢者とも連携(一体的実施)

各対策の期待できる効果と顕在化までの時間(イメージ)

(出典)データホライゾン作成

PSA検診と前立腺がん治療の状況について

前立腺がん確定診断後の状況

PSA検診受診、未受診に依らず、PSA監視療法が主たる治療となっている。検診受診、未受診者でPSA監視療法を比較すると、検診受診者のほうが高い(P=1.5%、詳細は別添補足データ参照)。PSA監視療法は、手術療法、放射線療法、ホルモン療法等の治療がリスク、ベネフィットの観点からまだ不要の患者の治療法である。
また、他の新生物の診断ありにおいて、検診受診者のほうが低い(P=3.3%、詳細は別添補足データ参照)。
さらなる、慎重な精査が必要であるが、早期発見・早期治療の観点から、前立腺がん検診受診の有用性を示唆する可能性がある。

各対策の期待できる効果と顕在化までの時間(イメージ)

(出典)データホライゾン作成

前立腺がん治療の状況

PSA監視療法が主たる治療であるが、それ以外の治療方法では、ホルモン療法が主たる治療方法となっている。
手術療法や放射線療法は施設も限られるため、治療地域医療の提供状況、自治体の規模等によって異なる。

前立腺がん治療の状況

(出典)データホライゾン作成

本調査のまとめと今後の展望について

本調査において、以下のことが示唆された。

①調査した6自治体において、前立腺がん医療費の全医療費に対する割合は、5つのがん(胃がん、肺がん、乳がん、大腸がん、子宮頸がん)と同様の割合である。

②調査した6自治体において、前立腺がん罹患率は、直近5年でほぼ、横ばいである。一方で、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」を踏まえると、今後増加することが見込まれる。

③上記①及び②を踏まえると、他の5つのがん同様に、前立腺がんについて、効果的・効率的な対策を講じることが重要であると示唆された。

④前立腺がん対策について、早期発見の観点から、PSA検診の状況について調査を行った。結果として、効率的なPSA検診実施のためには、以下の3点が重要である。

(A)PSA検査受診率の向上
(B)要精密検査未受験率の改善
(C)国民健康保険に加えて後期高齢者とも連携(一体的実施)

⑤上記、(A)から(C)の3対策について、それぞれが、庁内連携や郡市医師会、薬剤師会等の地域医療との連携、必要に応じた外部委託等を検討する必要があり、自治体の実情に応じて、期待できる効果の大きさ、効果の顕在化を勘案しながら対策を講じることが重要である。加えて、今回の調査と同時に行ったヒアリングによって、何よりも、自治体保健師による関係者調整や対象者への勧奨等の尽力が、効率的なPSA検診を行う上で、重要であることが再認識できた。

⑥PSA検診受診者、未受診者別の、PSA監視療法、他の新生物の診断ありの患者割合を調査した。同検診受診者は、未受診者と比較して、PSA監視療法の割合は有意に高く(P=1.5%)、他の新生物の診断ありの割合は有意に低かった(P=3.3%)。
ここから、さらなる慎重な精査が必要であるが、早期発見・早期治療の観点から、前立腺がん検診受診の有用性を示す可能性が示唆された。

⑦PSA監視療法が主たる治療であるが、それ以外の治療方法では、ホルモン療法が主たる治療方法となっていた。手術療法や放射線療法は施設も限られるため、治療地域医療の提供状況、自治体の規模等によって異なると考えられる。

今後、データホライゾンとしては、本調査結果を元に、PSA検診のより効果的な提案を展開する予定である。
例えば、本年4月より施行される高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施(一体的実施)も踏まえて、上記④(C)の国民健康保険に加えて後期高齢者とも連携した、PSA検診のフォローの重要性の提案を考えている。PSA検診受診率が一般的に低い中で、要精密検査の判定を受けながら、確定診断を実施しないのは、早期発見の観点から、何より本人にとっての大きな機会損失と言える。併せて、自治体A、B及びEで実施のPSA検査用精密検査全対象者への勧奨の有効性を踏まえて、他の自治体への提案にも加味したい。
また、PSA検診受診の有無による、その後の前立腺がん等の罹患状況をさらに精査して、PSA検診自体の有効性の再検討やどのような条件下では、自治体検診として有効であるかをさらに精査していく予定である。

データホライゾンの目指すデータヘルスについて

地域医療を巻き込み、適正医療の実現を通して、データヘルスのアウトカムの最大化を図る。これにより、被保険者、患者の健康寿命の延伸に貢献し、保険者、医療従事者、事業者等すべての利害関係者が利する形を構築する。

データホライゾンの目指すデータヘルスについて

参考

分析方法

本分析では、レセプト及び前立腺がん検診データを用いてデータベースを作成し、分析した。データベースの作成方法及び分析方法は、株式会社データホライゾンの特許技術及び独自技術を用いた。これらの技術を用いることで、対象疾患の患者数(実数)、対象患者の治療の状況等の把握が可能となった。
当技術を用いない、国民医療費等の主傷病集計による統計や健康管理のシステム等では、同様の調査は、困難である。結果として、今回の前立腺がんに関する調査が可能となった。

分析方法

株式会社データホライゾンの特許技術及び独自技術について

未コード化傷病名のコード化

レセプトに記載されている未コード化傷病名を、可能な限りコード化する。
レセプトは請求情報のため、傷病名が正確でない場合があり、現状10%程度の未コード化傷病名が含まれている。この問題を解決するため、マスタとの突合検索処理を行い、可能な限りコード化を行う。

医療費分解技術(特許第4312757号)

レセプトに記載されたすべての傷病名と診療行為(医薬品、検査、手術、処置、指導料等)を正しく結び付け、傷病名毎の医療費を算出する。レセプトは傷病名毎に点数が振り分けられておらず、通常の統計資料は主傷病名で点数集計されている。そのまま分析に使用すると「傷病名毎の医療費が把握できない」「現在治療中の疾病が把握できない」等の問題がある。ここでは、株式会社データホライゾンにおいて開発した、傷病名毎に診療行為を点数分解し、グループ化する技術を用いて医療費の集計を行う。

医科レセプト・調剤レセプト

①未コード化傷病名のコード化

未コード化傷病名を株式会社データホライゾン独自の辞書情報と突合検索処理しコード化する。

未コード化傷病名のコード化

②医療費分解後グルーピング

レセプトに記載された全傷病名に対し、適応のある医薬品や診療行為を関連付け、医療費を分解後、傷病ごとにグルーピングする。

医療費分解後グルーピング

補足データ

前立腺がん分析調査資料(自治体A)

前立腺がん分析調査資料(自治体B)

前立腺がん分析調査資料(自治体C)

前立腺がん分析調査資料(自治体D)

前立腺がん分析調査資料(自治体E)

前立腺がん分析調査資料(自治体F)

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